「007 スカイフォール」
原色の派手なコスチュームに身を包み、目立ちすぎるくらい目立っているが、それでも正体を誰にも明かさないアメコミのヒーロー。
漫画の中だと違和感がないのだが、実写化するとその異質さが際立ってしまう。
そのため、何故派手なコスチュームなのか?、それ以前に彼らの存在理由をもっともらしく説明しなくてはならない。
クリストファー・ノーランのバットマンは三部作で、バットマンのアクションよりも存在理由を描いている。
そして、存在理由を明確にするのはアメコミだけでなくスパイ映画も同じだ。
シリーズ誕生50周年を迎える007シリーズも、その存在理由を明確にしなくてはならない。
イギリスの腕利き諜報部員007ことジェームズ・ボンドが活躍する時代は、原作では第二次世界大戦が終わり、冷戦に突入した頃であり、西側VS東側という明確な図式が出来ていた。
しかし、ソ連が崩壊してからは、明確な〈敵〉が設定しづらい状況になってきた。
そして、ネットを中心とした情報戦になってからは、国そのもの概念がなくなりつつあり、スパイそのものの存在が怪しくなりつつある。
デスクでパソコンを操作することにより情報収集、敵も大掛かりな秘密基地にいて国を脅すのではなく、経済戦略により世界征服をする。
もはや、その行為そのものが脅威といえるかどうかが怪しい。
007の持つ秘密兵器も究極はスマホになってしまうのだ。
企業のネットが星を覆い
電子や光が世界を駆け巡っても
国家や民族が消えてなくなるほど
情報化されていない近未来
「攻殻機動隊」の冒頭に出てくる文の時代になってしまった現在、007がこれからも存在していく理由を明確にしなくてはならない。
MI6が世界中に送り込んでいるスパイのリストが盗まれ、Mの指示でジェームズ・ボンドが取り返そうとするのだが、作戦は失敗し、Mの立場も危うくなる。
そんな中、今度はMI6 本部が爆破され、リストの情報も漏れつつある。
どうやら敵はMへの復讐が目的らしい……。
今回の話は極めて異質だ。
おそらくシリーズの中では「女王陛下の007」や「消されたライセンス」に近いものがあるかもしれない。
Mの存在がかなり大きい。
今までのシリーズだとMはボンドに指示を出すだけだった。
指示を出し、時にはやりすぎるボンドのフォローする立場だった。
しかし、今回は違う。
上司として責任者の立場が追求される。
良かれと思ってする判断、時には犠牲を伴う時がある。
ましてやMの仕事はイギリスを守ることであり、その大義のためには個人の命でさえも危うくしてしまう。
それを承知の上で情報部員は女王陛下のためにひたすら働くのだ。
情報部員はMの指示の元、命をかける。
それは時にはMへの行き過ぎた想いになってしまうかもしれない。
今回の敵は正にそれだ。
敵は元MI6の凄腕エージェント。
MI6の手の内はお見通しだ。
ボンドの対局の存在になる。
それはある意味ボンドの自分との戦いかもしれない。
だから、今回の敵は世界征服を企むという誇大妄想なものではなく、国家を巻き込んだ極めて個人的な怨恨なのだ。
007としては極めて異質。
いや、もっといえば007ではないかもしれない。
しかし、シリーズ50年目を迎えたからこそ、そしてこれから存在していくためには、総決算的な意味では、この映画の存在はシリーズの中では重要である。
今までのようなスパイアクションを期待するとがっかりするかもしれないが、初めて観る人、もしくは小説も読んでいるような熱烈なファンには面白いはず。
プレタイトルは「慰めの報酬」と同じカーアクションである。
しかし、「慰めの報酬」がジェイソン・ボーンの悪影響を受けていて手持ち撮影&細かすぎるカット割りで何が何だかわからなかったが、今回は流れるようで迫力のある編集になっている。
世界を駆け巡る007だが、今回は上海に行くものの、イギリスが中心だ。
クライマックスはボンドの生まれ故郷での戦いとなる。
その戦いはまるで西部劇を思わせるものがある。
基本的に映画のボンドは記号であり、だからこそ、実は誰が演じようが問題はないのである。
シリーズが長年続いてきたのも、記号化しているからだと言えよう。
しかし、今回みたいに今まで適当に流していた生い立ちなどを細かく掘り起こすことにより、記号ではなく、一人の人間として描かれているのも異質の一つだ。
ボンド役のダニエル・クレイグは、どちらかといえば敵のテロリスト顔だが、今回の立ち姿など思った以上にかっこよく、こういうボンドもありだと納得させられるものがある。
ボンドガールは一応、ナオミ・ハリス、ベレニス・マーロウのはずだが、実質はジュディ・デンチが演じるMである。
今回でやっとQが出てくるが、今までのような職人みたいな感じではなく、いかにも今風なPCが得意な若造になっている。
正に世代交代である。
Qまでは予告編で出てくるのがわかっていたが、まさかマネペニーが意外な形で出てきたのは正直感動した。
「ゴールドフィンガー」のアストン・マーチンがもっともらしい理由をつけて登場したのは興奮した。
監督は「アメリカン・ビューティー」のサム・メンデス。
よくよく考えてみたらシリーズ初のアカデミー賞受賞監督なわけで、今回の起用は正解だろう。
もちろん、ツッコミ所はある脚本であることは重々承知しているが、それを補っても余るくらいの面白さがある。
結局、「慰めの報酬」で新しい敵かと思われたクォンタムの話が全くなくなっている。
この映画で新シリーズの準備完了。
いよいよ次回から本格的にシリーズがスタートするのなら期待している。
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☆これ、かなりの傑作でした。
が、これは、「007」シリーズではないな。
思えば、ダニエル・クレイグが主演した近作3作品は、出来はすこぶる良いが、私にとっては番外編的な意味合いが濃い。
私にとって…、と言うか、私の年代にとってのジェームス・ボンドは...... [続きを読む]
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