「蟹工船」
今やすっかり過去のことになってしまったが、派遣切りや派遣村で世間が盛り上がっていた頃、小林多喜二の「蟹工船」が再び読まれていると言われていた時期があった。
しかし、自分の周りはもちろん、電車の中でも読んでいる人はいないわけで、一体どこで脚光を浴びたり読まれたりしているのか、さっぱりわからない。
マスコミの静かなブームとかって何を根拠にしているかよくわからないが、所詮どこまでいっても「静かな」なんだろうなあ。
っつうか、マスコミって前はフリーターや派遣はいいって煽ってなかった?
そして今度は派遣切りを煽って、今は何もなかったような感じになっている。
まあ、マスコミは流しっぱなしなので、話半分で参考程度にしておくことが大切だ。。
現在の雇用の不安定化や製造業派遣といった労働環境の悪化が似ているし、原作が脚光を浴びているからという理由なのか「蟹工船」の映画化!
若干、旬を逃した感がしないわけでもないのだが、テレビと違い映画はフットワークが悪いので仕方ないだろう。
蟹を獲り、そのまま船内で缶詰に加工する蟹工船では、出稼ぎ労働者が過酷な条件での労働を強いられた。
そんな中、一人の漁夫が、労働者たちをまとめて、立ち上がろうとしていた…。
これは「蟹工船」をモチーフにしたSFだと早めに気づかないといけない。
制作側も当時の原作の設定を元にリアルな話を作ろうと考えていない。
あくまで今の社会状況を「蟹工船」に合わせてみただけなのである。
だから、労働者が妙に血色の良い若者ばかりで小奇麗な格好で、彼らの寝る場所がカプセルホテルっぽかったりするのは当然なのだ。
松本アニメで宇宙=海というのと同じ思想なのである。
そう考えるとSFとしては、それなりに面白い!
そこには鬼気迫るものはないが、若者の牧歌的な思想がある。
だから緊迫感はないが、それで当たり前なのだ。
本当は出稼ぎ労働者に感情移入するべきなのだろうが、自分は彼らを使う監督の気持ちがよくわかる。
彼にもノルマがあるし、沢山の労働者をまとめるのは大変厳しい。
労働者は自分個人のことさえ考えていればいいが、彼の立場はそういうわけにもいかず、むしろ中間管理職の悲哀の方を感じた。
それに労働者の環境問題もエスカレートしてくると、自分勝手になってしまうわけで、所詮雇われてナンボの世界でもあるのだから、両者が良い環境で作業効率が上がり収益が上がる方法を模索した方がいいと思うのだが、何故かこの手の話って、そこらへんがすっぽ抜けなんよね~。
出演は松田龍平、西島秀俊で、特に西島のSっぷりは良い!
監督は「弾丸ランナー」のSABUなので、狭い船内なので、あまり走ってはいないが、相変わらず独自の世界を作っていた。
ただ、この映画の対象でもある労働環境の悪化を嘆く人は、1800円も払って映画なんか観ないと思うぞ。
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この間、SABU監督新作映画蟹工船を観に行きました。
しかし、ここまで酷く描く作品は観たことありません。
私は若いときに原作を読んだ記憶ありますが昨年の蟹工船ブームになっていたので再読しました。1953年山村惣監督の蟹工船も観ました。
リアルでおっさん臭いほど演技が光る重圧感と虐げられた労働者たちが起ちあがるシーンは感動そのものです。
新作ではどうかというと時代無視、どこか懐かしい昭和30年代の日本の面陰を散らす。船内の糞壷はまるで大きな蜂の巣みたい。天井剥がしたようにかなりある配管。作業場にはコンベアを動かす大きい歯車があります。まさにSABU監督らしい演出です。だがお話は原作と違い、飽きれるほど貧乏自慢話や集団自殺?これって誰に観せているのかわかりません。
さすがに途中で帰ると思いました。まあ。最後まで観るのが礼儀でしょう。
前編ではこんな感じで進み、後編にあたりかな?小林多喜二の原作が息吹き返してくるが、行く不明になった二人の漁夫がロシアで救助され、ロシア人たちが踊っている船内で怪しげな中国人が話かけてくる。この台詞は謎説きのようにへんな日本語で説得する場面であるが、笑いさせるところでしょうが私はイライラしてまったわい。戻ってきた二人の漁夫。そのうちのリーダーの漁夫は労働者たちを団結させ、ストライキ突入。要求書を持って浅川監督に渡すのだが、その翌日。駆逐艦の水兵たちに包囲させる?じゃない。
宇宙船のような将軍と一人の水兵でした。突然、浅川監督がリーダーの漁夫の背中にピストルで打ったれてしまう。リーダーの漁夫が叫ぶ。ロシア人や日本人なんて関係ない。みんな、同じ歯車じゃないかと云って死んでいくリーダーの漁夫の役松田龍平くんの演技は素晴らしいかったと思います。
そして、SABU監督も感動したという、彼等は起ち上がった、もう一度というストーリです。だから、前編の方で作業場シーンに労働者の表情のアップ、全体の繰り返しの演出すること。同じアングルではあまりよくない。
蜂の巣のような糞壷シーンも同じアングル。映画なのに舞台を観ている感じ
です。役者の台詞が聞き取りにくいところが多い。映画監督は最低劇作家シェークスピアを読むべし。
蟹工船は優れたプロレタリアート文学であり
弱い立場の視点で描いたものです。
映画監督選び方が間違ったのでしょう。
文学的知識を持った職人の映画監督ならば
しっかりした蟹工船の映画になったかもしれません。
SABU監督のようなポップアート表現主義は悪く思わないがかえて自己意識が強くなりがち、これはオリジナル作品だったら良いでしょう。
蟹工船は文学性の高いものであるから、
映画製作担当者は真剣に考える必要ではないでしょうか。
投稿: ときお | 2009年7月23日 (木) 21時51分